岡本行夫公式サイト

2017年7月10日

「半島有事の可能性…北朝鮮めぐる各国の“ジレンマ”」③

(2017年7月10日「プライムニュース」より)

●米露首脳会談

 トランプ大統領は国内的に自分の身の潔白を証明するためにも、「プーチンにこれだけのことを言ったぞ」というアリバイ作りが必要ですし、当然でしょう。一方、プーチン大統領は本当のことを言うことはないでしょう。

 トランプ大統は、特に投資について色々噂があります。フロリダで彼が王国を築くにあたってロシアの資金が相当入ったと言われていたり、トランプ大統領の息子さんが数年前に「ロシアに助けてもらった」ということを言っていたりと、色々あるようです。しかし、早くそういった話はもうやめて、もう少し大事な外交政策について議論したいというのが双方の本音じゃないでしょうか。

 ビジネス的な貸し借りがあり、それが今の米露関係になにがしかのバイアスをかけるリスクがあるからこそ、「あなたは選挙介入をしたんじゃないの」と強く言うという建前があるわけです。とはいえ、トランプ大統領とティラソン国務長官しか会談に入っていない。ロシア側も大統領と外相だけでした。機微な話をどう着地させるかということを話したのかもしれません。

 ロシアとビジネスの利害関係があるトランプ大統領と、ロシアビジネスで名を成し、プーチンから勲章をもらったことのあるティラソン国務長官の二人が初会談に臨んだ。ただティラソン長官がもらった勲章は友好勲章であり、あれは割合広く与えられているもので、そんなに気にする必要はないと思います。ティラソン国務長官の就任前の議会証言は、非常にしっかりした立場をロシアに対して貫いていたので、ロシアとの関係の点では心配ないでしょう。。

●アメリカの今後の対応

 アメリカの主流の考え方は「制裁しかない」というものです。結局、北朝鮮が核を保有することは阻止できず、アメリカ本土にまで届くようなICBMの開発も押しとどめられないという認識はかなりあるでしょう。もちろん、核武装をさせないための制裁や国際努力が大事なのですが、核武装をしてしまった後の北朝鮮とどうやって向き合っていくかということも、アメリカはすでに検討していると思います。核保有国である北朝鮮との軍備管理・軍縮交渉、そして北朝鮮の体制保証を与えるか、核保有国たる地位を認めるのか、といったことです。

 そういった中で、アメリカは、結局は自分のところにまで届くミサイルを北朝鮮が持つようなことになれば、今の対応ぶりではダメなので、国家を挙げてのミサイル防衛網ということを考えるのではないでしょうか。例えば1980年代にソ連との関係でSDI計画がありました。これは凄まじい計画で、ソ連が当時持っていた2万発のミサイルを一斉に秒速8kmで宇宙空間を通ってアメリカ大陸に向けて撃ち込んでくることを想定し、それらすべてに4000km離れたとこからレーザー光線を当てて、全部の電子回路を焼き切るというものでした。10km先の蚊の目玉を射貫く精度が必要だと言われた技術です。私は当時、アメリカの研究施設を訪ねて歩きましたが、アメリカの科学者、技術者たちは、「これは実現可能なんだ」と燃えるような意気込みで研究していました。冷戦が終わり計画自体が今はなくなっていますが、アメリカは底知れぬ技術力をもっているので、またやり始めるんじゃないでしょうか。それは決して日本にとって悪いことではなく、むしろ良いことです。日本もその恩恵に与れます。

 韓国は通常火力+短距離ミサイルで脅威に晒され、日本は通常火力の脅威には晒されていないが、短・中距離ミサイルに晒されている。そしてアメリカは、短・中距離ミサイルの脅威には晒されていないが、ICBMには晒されている。3つ国の危機の態様が違うわけです。それをアメリカがどこかで線を引かないよう、同盟国全部を守るようアメリカを説得し、常に監視していく、それが日本の行く道だと思います。

●日韓合意と慰安婦問題の行方

 韓国はいくら合意をやってもその時々の政権基盤の強さと国民感情によってどうにでも変わってしまう。俗に、ゴールポストをどんどん動かす国だと言われます。
慰安婦合意の中で、少女像の撤去ということに焦点が当たってしまっていますが、日本は「撤去してないじゃないか、早く撤去しろ」とどこまでも言い続けることが得策なのかどうか。一度できてしまったものを全部壊していくというのは大変なことです。しばらくはそれはほっといたらどうかという気もします。合意の中で一番大事だと思うのは、「お互いにもう悪口は言わない、事態を悪化させない」というあの一項です。韓国は全世界で反日キャンペーンを行っていて、しかも慰安婦問題を材料にしてやっているわけです。アメリカにも慰安婦像を次々に建て、今度ドイツにも建てました。他の国でも建てる計画があります。その時には必ず「日本というのはこんなにひどいことをしたんだ」と言う。アメリカの教科書には、日本のことがそれはもう悪く書かれている。これも在米韓国人の団体や韓国系アメリカ人たちによるキャンペーンが背景にある。「これらをやめましょう」と、少なくとも「海外で新しい慰安婦像を建てるのは、これは明らかに合意に反しているでしょう」と。 こういった点は、文在寅大統領だって話に乗ってこれると思います。

 在米韓国人が地元の自治体に働きかけて慰安婦像を建てている実態は、かなり韓国政府が在米韓国人たちの政治力を強めるために努力していることが背景にあります。二重国籍を認めてアメリカ国籍の韓国人を増やし、そしてバラバラになってしまう韓国人たちを朴槿恵大統領がニューヨークへ行って演説し、「皆さんは慰安婦像建立という良いことをやってくれている」と、彼らの活動を奨励していた面もあります。だから、韓国政府が「もうお互いに第三国で中傷し合うことはやめようと日本の間で合意しました、皆さんもそのことを知ってください」と言えば、少なくとも今のようなことはなくなると思います。

●提言「日本がとるべき外交姿勢」

 「外交政策の基礎になる防衛政策についての国民的議論を」ということを提案します。どういう外交政策をとるかという根っこには、日本人、国民としてどういう防衛政策をとるんだということがなければ相手に対応することは出来ないと思います。敵基地攻撃能力の保有の問題もその一つの例です。戦争となれば、北朝鮮は何発もミサイルを日本に撃ち込んでくる。まず東京に撃ち込んでくるが、そのとき日本は何もできない。そうしている間に、次に大阪にミサイルが飛んできた、その次は福岡に飛んできた。そのときも日本は徹底的な無抵抗主義を貫くのか、それとも敵基地つまり策源地を攻撃する能力を持っても良いのか、あるいは朝鮮有事が起こったときに日本は重要影響事態法だけで事足れりとするのか、といった国民的議論をしっかりおこない、防衛政策を固めていく必要があると思います。