岡本行夫公式サイト

2017年7月10日

「半島有事の可能性…北朝鮮めぐる各国の“ジレンマ”」②

(2017年7月10日「プライムニュース」より)

●中露の立場

 プーチン大統領、習近平主席それぞれの心の奥底を覗いてみる必要があると思います。プーチンにしてみれば、この20年間ずっとNATOに押し込まれてきた。NATOの東方拡大、つまり旧東欧諸国までは手を伸ばさないという約束をアメリカと旧西側陣営が反故にして、99年にポーランド、チェコ、ハンガリーを、さらに2004年にバルト三国であるエストニア、ラトビア、リトアニアをNATOに加盟させた。それからルーマニア、ブルガリアも入れてしまった。今やロシアはNATOと直接国境を接するところにまで押し込まれてきている。「これを押し返すんだ」というのが、クリミア、ウクライナへのロシアの対応であり、プーチン大統領は腹の底では「トランプ大統領に協力していこう」などという気はないと思います。表面上は必要な外交上の手当てとして友好的な演出をするとしても、プーチンからすれば、「もう一度西側陣営に挑戦するんだ」という考えがあるのだと思います。北朝鮮問題にしても、アメリカの言うことを聞いてアメリカに花を持たせるようなことはしないでしょう。

 習近平主席は何を考えているか。北朝鮮問題をどう扱うかまだ決めていないのだと思います。暴れん坊だけど友好国である北朝鮮が中国にとって怖いのか。それとも統一朝鮮というものが韓国の主導の下にできて、そこに米軍が残ったまま、その民主国家が中国と国境を接する、その方が中国にとっては怖いのか。そのことについて、中国国内で結論はまだ出ていないのだと思います。そこを強引に、北朝鮮の核武装の方が中国にとって危険なんだと国内をまとめて、そして徹底的な制裁を北朝鮮に加えるという気にはなっていないと思います。中国の北朝鮮制裁というのは上辺だけだと思います。

 中国の対北朝鮮の貿易の今年の1-3月の数字は40%も伸びています。ただその数字は、あくまでも前年の取引量に対する伸び率です。トランプ大統領が習近平主席に本格的に働きかけたのは今年4月に入ってから、北朝鮮が次々とミサイルを打ち上げ始めたのは今年の3月以降からです。ですから、北朝鮮に対して支援の方向に中国が舵を切ったというわけでもないと思いますが、アメリカの衛星写真などによれば、今も北朝鮮の貨物船が中国の港に入ったりしているようです。中国は、本気で北朝鮮を抑え込もとしていないようであり、それが一番の問題です

 中露は、北朝鮮ミサイル問題というのは北朝鮮とアメリカの問題だと思っています。どこかの時点で、彼らが「いや、そうじゃない。我々の安全保障にとってもこれは甚大な影響があるんだ」という認識をもつまで、北朝鮮問題に彼らが本腰で取り込むということはないのではないでしょうか。

●安倍首相のエストニア訪問中止

 NATOにしてみれば、エストニアは非常に重要な国です。交代でローテーションを組んで、色々な国の軍隊がエストニアに駐留しています。安倍総理が訪問するということは、非常に強い支援のメッセージを西側諸国、特にヨーロッパに対して発することになったと思います。今回の訪問キャンセルには、西側諸国はちょっとがっかりしたでしょう。

 安倍-プーチン関係においては、プーチン大統領が「アベは気を利かせたな」と思うかもしれません。しかし、そういう風に思われてしまうと、ますます足元を見られてしまいます。本心はもちろんわかりませんが、「俺たちのことを怖がって、結局日本は何もしない」とプーチン大統領が思ったら、それは良くないことです。

●韓国の矛盾した対応 - 日米とは「圧力」で、中国とは「対話」で。

 韓国には、いざ危機管理に失敗すれば、殺されるのは自分たち韓国人だという意識がありますので、韓国の立場がこのように矛盾したものになるのでしょう。「対話」と彼らが言うのは、別にいいのではないでしょうか。「制裁と対話」とありますが、大事なのは制裁です。制裁にも韓国は加わって圧力をかけ続ける。でも北朝鮮とその間、一切しゃべるなと日米が言うことではないと思います。

 アメリカや日本が北朝鮮と対話すれば、これは間違ったシグナルを北朝鮮に与えてしまいます。しかし、元々、親北朝鮮左派の大統領である文在寅のような人が対話を求めたからといって、北朝鮮が「見ろ、これで一挙に日米韓の結束が崩れたんだ」と思うことはないと思います。文在寅大統領の立場に身をおけば、対話というのはそんなに目くじらを立てなくてもいいんじゃないかと思います。もちろん、もっと制裁を強化していくという戦列から韓国が脱落しさえしなければ、という留保はつきます。しかし、あれだけ危機的な状況に置かれているわけですから、韓国が日米韓連携から離反していくリスクはないでしょう。

 考えてみれば、38度線沿いに8000の長距離砲が並べられ、それがもう60年続いており、常に危機に韓国は晒されてきている。韓国も、制裁を全部やめて対話で解決しようとは思っていないでしょう。もちろん、韓国が日本とアメリカも制裁を緩めろと言ってくるのであれば、我々はこれをきつく諫めなければいけません。いま、制裁を広範な分野についてやっています。この一部が崩れることはいけません。韓国もそれをやってはいけない。彼らが「対話」といっても、基本的には「しゃべるだけ」の話です。

 もう一つ、私は文在寅大統領との間であれば、日韓の修好というのが可能かもしれないと思っています。皆は、「文大統領は北朝鮮との対話路線だから日本との関係は悪化する」と言うのですが、そんなことはないと思います。日本にとって一番良かった韓国の大統領は金大中大統領でした。彼は歴代で一番の左派で、南北対話も始めた人です。しかし日本との関係では、「もう歴史問題は終止符を打ちましょう」と言って、感動的な国会演説を1998年にやってくれたわけです。しかし、その次に出てきた盧武鉉大統領が全部それをひっくり返した。文在寅大統領は、その時の秘書室長だったというバックグラウンドはあるのですが、大統領に選出されてからの言動を見ていると、割合現実的なところがあるし、日本との関係も、朴槿恵大統領は全然大事にしてくれなかったけれど、文大統領はやってくれるんじゃないかという気がします。文在寅大統領がやることすべてについて日本が批判する必要はないのではと、戦術的にも思います。