岡本行夫公式サイト

2017年7月10日

「半島有事の可能性…北朝鮮めぐる各国の“ジレンマ”」①

(2017年7月10日「プライムニュース」より)

●北朝鮮対応の米中の“温度差”

 米中首脳会談で習近平主席は、北朝鮮問題について「対話による問題解決」を主張しました。しかし、中国が何と言おうとも、北朝鮮への制裁はどんどんきつくしていく必要があります。アメリカはまだ制裁を十分やってきていません。例えばイランなどに対してかつてやってきた制裁の方が、今北朝鮮に対してやっている制裁よりも強い。イランは結局それに音を上げて、核合意というところまでいって国際社会、つまり欧州及びアメリカと締結に至ったわけです。それくらいに厳しい制裁でした。

 北朝鮮と取引をしている、あるいは関係のある人に支援をしている企業や銀行に対して、まだ十分アメリカは二次制裁と呼ばれる制裁をかけていない。これからそれらを強化していくでしょう。トランプ大統領は、習近平主席の主張する「対話による解決」は支持していないと思います。

 アメリカ政府が中国側の「対話による問題解決」についてのステートメントに対して反論していないことに深い理由はないと思います。なにしろ議会の承認を要する「ポリティカル・アポインティー」といわれる政府高官、例えば各省庁の副長官、次官、次官補、次官補代理といったポストが全然埋まっていない。560程ある高官ポストのうち、トランプ政権では400人近くがまだ指名もされていません。だから北朝鮮担当の高官というのも指名されていない。ティラソン国務長官、マティス国防長官の両長官だけで、手足がないという状態です。だから、そういった中国政府のステートメントに反論するステートメントの公表といった事務的な作業が抜けている可能性があります。政治的な意味があるのかと深読みする必要はないと思います。政治的な意味ではなく、事務的な意味でこういうことが起きているお粗末な状況ではないでしょうか。何か反論を出した方がいいのは間違いありません。そこを気にしないくらい今のアメリカ政府全体がガタガタしているということです。

 ここまでのところは、北朝鮮問題についてアメリカは終始一貫「制裁による問題解決」ということでやってきたのですが、共和党の右派の中には、「今度のICBM発射はアメリカにとっての本当の危機だ。同盟国は守るが、彼らに少々火の粉がかかってしまってもしょうがない。それよりもアメリカ本土に到達するミサイルと核弾頭の小型化を阻止するために、外科手術的攻撃をおこなうべきだ」という極端な意見を持つ人も一部出てきています。それをトランプ政権は抑え込まなければいけない。だから「制裁をやるから」ということをしきりに言っているのでしょう。国内世論を一つにまとめるための努力に、いまトランプ政権は相当力を割いているのではないでしょうか。

●アメリカ政府の選択肢

 北朝鮮に対して、制裁強化、対話、武力行使という選択すらできないでいるのではなく、アメリカ政府としては「制裁」しか選択肢はないのです。対話というのはありえないでしょう。武力行使も、やればとんでもない結果が起こるということはわかっています。北朝鮮がミサイルを撃ってきたとき、THAADなどのシステムで撃ち落とすことを皆考えていますが、忘れてはならないのは、北朝鮮は通常兵器も大量に持っているということです。38度線に並べている長距離砲などは8000基くらいにのぼります。これは1万メートルくらいの射程がある。ソウルには届かないとしても、その他にロケット砲が1000基くらいあると言われています。これは射程が長いからソウルまで届く。そうすると第一撃で何万、下手をすると何十万という単位で市民が死んでしまう。通常兵器に対する攻撃は防ぎようがないので、撃たれたらおしまいです。

 アメリカが先制攻撃を行えば、北朝鮮はそれに対して直ちに核兵器で対応するということはたぶんないでしょう。それをやってしまうと、今度はアメリカが核兵器で反撃してくるからです。しかし、通常兵器による攻撃は北朝鮮はやるでしょう。そうなると、北朝鮮がいつも豪語するように「ソウルは火の海」になり、取り返しのつかない被害が韓国及び米軍にも出てくると思います。ですから軍事オプションというのはアメリカにはないと思います。あとは制裁をいかに効果的に行えるかということです。

●トランプ政権がかかえる問題

 ポリティカル・アポインティーの任命が遅れている理由として、指名されても、自分のキャリアに傷がつくかもしれないのでそれを受けるかどうか考える人が多いということがあると思います。そしてもう一つは、ホワイトハウスの方が意図的に指名を遅らせているという面もあります。ティラソン国務長官、マティス国防長官、マクマスター安全保障担当大統領補佐官らは逸材であり、誰しもが認める優秀な人たちです。しかし、その人たちが完全に外交政策を固めてしまうのを阻止するため、ホワイトハウスが自分たちで大枠を作っていくんだという意思の下、ティラソン、マティスの両腕をもぎ取っておいた方がいいという判断もあるのではないかと疑う人は多いです。メディアとの関係で言えば、トランプ政権の報道官と副報道官は、歴代の政権の中でも最悪に近い人たちです。申し訳ないが、何を言っているのかよくわかりませんし、個人的な資質の問題もあるのではないでしょうか。