岡本行夫公式サイト

2017年7月9日

北朝鮮問題

(2017年7月9日「日曜討論」より)

 私は10年以上前から主張していますが、北朝鮮は最終的にアメリカ本土に届く足の長いミサイルと、それに装着する小型化した核弾頭を持つまでは、何度でも必要なだけ実験を繰り返すでしょう。そして残念ながら、何者もそれを止められないのではないかと思います。北朝鮮はこれからも開発を続けるでしょう。今までは、ごまかしながら「これは人工衛星だ」というような姑息な説明をしてきていましたが、開発段階がここまでくると、人工衛星だと言い張るような小細工はやらず、正面から認めていいという判断があるのでしょう。アラスカまで届くと言われるミサイルを持った限りは、アメリカが攻撃をしてくることはないだろうという読みもあるのだろうと思います。

 米中という二大国の間の外交的な積み重ねが進んでいないという現実の中で、北朝鮮のICBM問題が出てきました。この問題に関して終始一貫した戦略を持っているのは北朝鮮だけじゃないでしょうか。

 中国は、核武装をした弟分の北朝鮮と、民主化して韓国主導の下に統一されしかも米軍がそのまま駐留する新しい朝鮮半島、どちらの方が自分の国にとって脅威かというところの綱引きが国内であるんだと思います。前者、つまり核武装した北朝鮮の方が脅威だという人たちもいるでしょうが、後者の考えを持っている人もたくさんいると思います。そして、中国共産党内でせめぎ合いがあり、習近平主席としては今秋の大事な党大会を控えて、党内での分裂抗争はなんとしても避けたいとうことで、なかなか動けないことになってきている。

 アメリカに軍事攻撃のオプションはないと思います。北朝鮮の開発を少しでも遅めて、その間に自分たちが対抗技術を開発できるかどうか、そういう場に直面しているのだと思います。

 そこで肝心なのは中国の認識だと思います。中国は、この問題は北朝鮮とアメリカの間の問題だと考えている節がある。中国が核武装した北朝鮮が自分にとっても「脅威だ」と思わない限り、なかなか本腰を入れて制裁をしない。石炭の輸入を止めていると言っていますが、衛星から見ると北朝鮮の貨物船が次々に石炭を積んで中国に入港しているようですし、尻抜け状態になっています。北朝鮮に対する生殺与奪権を握っているのは中国ですから、そこが本気になってくれるかどうかだと思います。

 アメリカは時間稼ぎをしながら、北朝鮮が核保有国になってしまったという前提も置いて、ミサイル防衛網の強化などを含め新たな検討を始めるのだと思います。

●トランプ政権のレッドラインは?

 レッドラインは政治的にはあり得ると思います。「北朝鮮が呼吸できなくなるくらい制裁を強めるんだ」という意味での政治的レッドラインです。しかし、軍事的な意味でのレッドラインは引けないと思います。仮にレッドラインを北朝鮮が越えたとしてアメリカが軍事行動に出れば、北朝鮮は強力な報復能力を持っているので、韓国と米軍側に何十万人にのぼる犠牲者を覚悟しなければいけない。だからこのオプションはないと思います。

 アメリカはまだまだ制裁でやれる余地があると思います。イランに対してアメリカがしていた制裁措置の方が、今の北朝鮮に対しておこなっている制裁より強いぐらいです。イランはその制裁に音を上げて、結局核合意に至ったわけですから、当分アメリカはそのラインだと思います。

●米露の核軍縮交渉

 ハワイまで届くミサイルが完成しつつあるということはありますが、アメリカはまだ北朝鮮が米本土まで届くミサイルは持っていないだろうということで若干の安心感をもっていると思います。ロシアと話し合って核軍縮が実現するか。クリミア・ウクライナ問題があって新START交渉もまったく滞っていますし、アメリカは北朝鮮問題についてはロシアのことをキープレーヤーとして見ていないのだろうと思います。

 日本として心配なのは拡大抑止の問題です。日本はすでに北朝鮮のノドンミサイルなどにカバーされてきていたわけです。だから状況は変わっていない。今、アメリカが慌てふためいて、今度は自分たちの安全保障の問題だということになっている。しかし、今までのミサイルの脅威と同じように凍結という形にしてしまうと、日本に北朝鮮の核の脅威を晒し続けることになりますから、日本にとっては深刻な事態です。

●米韓関係

 アメリカの共和党の一部には「自分たちのところへ現実的な脅威が差し迫ってきた。この際、アメリカの防衛を考えるべきで、もちろん同盟国は守るけども、少々の火の粉が同盟国である韓国と日本に降り注いでもしょうがないじゃないか。だからいま先制攻撃を北朝鮮にしてしまえ」というような我々にとっては危険な思想があります。韓国にとっても、たまったものではありません。

 韓国が北朝鮮と対話すること自体は悪いことではありません。制裁は制裁で別に進めていけばいいわけです。何よりもアメリカが一番気にしているのは、日本と韓国が仲違いをして同盟国同士でいがみ合っていることです。これをなんとか修好してくれと、オバマ政権のときも何度も言ってきたわけです。文在寅政権が北朝鮮寄りだとしても、日本にとって一番良かった韓国の大統領は金大中大統領でした。まさに北寄りの大統領で、それでもあそこまで日韓関係を改善しました。私は文在寅大統領が日韓関係を改善することに期待しています。

●核・ミサイル、日本はどうすべきか。

 第一に、日米関係の強化だと思います。一番大事なのは北朝鮮を核武装国家にさせないことですから、厳しい制裁をアメリカと一緒にやっていく必要があると思います。しかし、残念ながら北朝鮮が核武装国家になってしまう可能性は大きいと思います。その時にはまた、アメリカが違った対応をしてくると思います。もちろん核縮減交渉もやるでしょう。アメリカはかつて1980年代に、ソ連が2万発のミサイルを発射したときに、それをすべて宇宙空間でインターセプトするという壮大なSDI計画を立てたことがあります。アメリカがそういったミサイル防衛網を新しく検討し始める可能性があると思います。日本はその効果に与っていかなければなりません。

 それから第二に、韓国との関係強化です。

 そして第三に、日本の国内での防衛論争です。例えば敵基地攻撃能力の問題です。北朝鮮が攻撃してくる場合、一発のミサイルだけではなく当然何度か攻撃をしてくるわけです。その間に日本は無抵抗主義でいいのでしょうか。先制攻撃はいけませんが、報復攻撃能力を抑止力としても持つべきではないか。そういうことについて国民的コンセンサスを得ていく必要があると思います。