岡本行夫公式サイト

2017年5月29日

「G7サミット」②

(2017年5月29日「プライムニュース」より)

●トランプ大統領のサミット初参加

 サミット声明で、経済に関して「保護主義と戦う」という文言を盛り込むことを了としたトランプ大統領。そこは妥協があったのでしょう。トランプ大統領としては「あらゆる保護主義と戦う」とやられるのはかなわない。「あらゆる形の」を削除して「保護主義と戦う」とした。要するに、不公正貿易を相手国がやった場合には、アメリカはそれに対してセーフガード措置、つまり輸入制限措置をとってもいいだというお墨付きを得たと思ったのではないでしょうか。しかし、世界には多様な意見があるが、同じ価値観をもった先進国首脳が集まって意見をすり合わせようというサミットで、ここで意見が割れたらどうしようもない。しかし率直に言えば、今回は、今までのサミットのどの場面よりも分裂というところが出てきてしまった。これはやっぱりトランプ大統領の登場によるものです。

 トランプ大統領は、ドイツを名指しして批判しました。本当は日本の対米貿易黒字の方がドイツよりも大きいんですが、「ドイツの貿易黒字が悪い」と。これは安倍さんと仲良くなったから多分遠慮して言わなかったのでしょう。日本のことを知らない去年の選挙キャンペーンの時点では、ドイツのことは一切言わずに、2015年はドイツの方が日本よりも対米貿易黒字が多かったにもかかわらず、「日本と中国とメキシコが悪い」とやったわけです。サミットの仲間うちの一人を名指しして、「あれは悪い」ということを会議場内はともかく外へ出ても言うのは初めてです。メルケル首相があれだけ反発したのも、トランプ大統領がサミットの場で特定国を名指しで攻撃しないというルールを守らなかったということに対する反発なんでしょう。

 いろいろな意見の対立というのはありますが、最低限のところでまとまって、兎にも角にも立派なコミュニケができたわけですから、それを前回と比べてはああだこうだと言う必要はないのではないかと思います。よくまとまったと思います。

 今回のような「トランプVSメルケル」のような名指しの批判はこれまでにはなかったでしょう。これはトランプ大統領の未熟さだと思います。もう少し大人になるべきだと思います。中での議論ではいくら言ってもいいけど、外には絶対出さないというのが今までの慣行であり、皆が守っていた礼節です。サミットは物事を決めていくというものではなく、皆で同じ方向で考えをまとめていきましょうというセミナーみたいなものなのです。皆で良い気持ちで帰れるというように今まではなってきたのですけど、苦々しい感情を持って首脳の一人が帰るということは、良くありません。

 トランプ大統領も段々分かってくると思います。各国の反応などを見てるわけですから。

●パリ協定離脱

 「パリ協定」からの脱退については、希望的観測ですが、トランプ大統領は結局は、脱退をやめることを期待しています。

 今まで彼は壊し屋的なことをずっとやってきました。そのことが直接的な原因ではありませんが、段々と支持率も下がってきています。今回のNATO首脳会議でのマケドニア首相を押しのける姿のように、トランプ大統領の暴れん坊ぶりに対する批判というのも高まっている。本当にアメリカを代表して、国際会議に行く大統領なのかという批判もこれから出てきます。

 トランプ大統領が国際協調をやっていくとなると、そのときにどうしても受け入れられないのは、アメリカの雇用の削減につながってしまうようなことです。パリ協定を離脱しなければアメリカの雇用がどんどん減っていくかというと、必ずしもそうではない。安倍総理が、「ビジネスの面から環境を考えたら雇用はかえって増えるんだ」と言ったとの報道もあります。そういう見方は確かに一つあるわけです。もう一つ大きなことで考えれば、アメリカの雇用削減は、これも統計を見ればはっきりと出ていますが、グローバリゼーションや環境への配慮が理由で減ってきているのではなく、生産技術の向上、つまりはロボット化やAIなどによって労働者がいらなくなってしまった部分が削減されているんです。そういうことを考えれば、安倍総理の「環境ということをむしろ雇用につなげていくんだ」という発想は、非常に新鮮にトランプ大統領に届くのではないでしょうか。パリ協定から離脱すれば雇用が助かるという考え方は、間違いだったということを段々分かってくると思います。