岡本行夫公式サイト

2017年5月29日

北朝鮮

(2017年5月29日「プライムニュース」より)

 今日のミサイル発射は、明らかにG7サミットに対する対抗意識からきていると思います。北朝鮮は最終的にアメリカに届くミサイルと、それに乗っける小型核弾頭の開発を終えるまでは必要なだけ何回でも実験をやるだろう、と私は昔から言ってきました。今もその考えは変わりません。

 北朝鮮としては、アメリカが対話などをチラつかせていますが、いったん核保有国、核大国としての地位を確立したうえでアメリカと交渉した方が自分たちにとってずっと有利だと考えているでしょう。彼らは、各国が制裁で厳しく締め付けてにっちもさっちもいかなくなるまでは、実験をやり続けるのではないでしょうか。そして、彼らの目からすれば、まだその段階に至っていない。

 特に金融面での制裁は、まだまだアメリカはやろうと思えばやれることはあります。これからそれをやっていくのではないでしょうか。

 ロシアが万景峰号という北朝鮮の貨物船の行き来を認めました。1ヶ月に数回往復するわけです。国連決議は、北朝鮮の船が入ってきたら拿捕しろと各国に言っているのに、ロシアは拿捕どころか歓迎の姿勢です。国際的な北朝鮮制裁戦線を固める上で、まだまだ穴が空いているということではないでしょうか。

 この一年間ぐらいで、国際社会の北朝鮮に対する見方は非常に厳しくなってきました。アメリカが深刻に北朝鮮の脅威を受け止め始めたということでしょう。アメリカは、今までは「ミサイルは日本には届くけど自分たちのところには届かない」と高を括っていたフシがありました。

 日本にとっての脅威は、1994年以来北朝鮮がノドンを配備してからずっと変わってない。北朝鮮のミサイルの性能が向上して、ひょっとしたらアメリカ大陸まで届くかもしれないという段階にきて、ようやくアメリカが深刻に捉え始めた。

 安倍総理は2月の日米首脳会談でも北朝鮮の脅威をトランプ大統領に訴えました。こうして日本がアメリカに対して、「これは本当に同盟国全体の危機なんだ」ということを働きかけていることも、アメリカの北朝鮮に対する意識の緊張化を後押していると思います。国際社会が本当に一致・結束して、ロシアの制裁破りをやめさせ、中国にもっと真剣に北朝鮮への経済制裁を行わせ、アメリカはもっと金融制裁を強めるということをやり始めると、北朝鮮も経済的にやっていけない段階にきて考え直すと思います。それを期待したいと思います。

 対話は今まで何度も何度も行ってきましたが、北朝鮮によって全部反故にされてきています。それはアメリカの責任もあったと思います。北朝鮮が駄々をこねれば飴玉をやるみたいに、やれ新しい形の原子炉だ、やれ重油の提供だということをやってきたわけです。結局うまくいかないどころか、北朝鮮がどんどんと核・ミサイル能力を高めてきてしまった。

 今の段階では、国際社会がもう一段馬力をかけて、北朝鮮に圧力を、とにかくかけられるところまでやってみようということではないでしょうか。

 圧力を高めるとさらに実験を繰り返すのではというリスクもあります。難しいのは、そこのあんばいです。ただ北朝鮮だって、そういつまでも今の空威張り、挑発行動を続けることは、経済的に本当に困窮してくれば、できなくなってくると思います。

 中国にとって一番大事になるのは、この秋の第19回共産党大会です。ここで習近平主席が自分の地位を盤石なものにするためには、国内からの批判を絶対に浴びたくない。ありとあらゆる口実で習近平主席の足を引っ張ろうとする反体制派は党内にたくさんいるわけですから、外交政策について、アメリカに言われて北朝鮮に制裁をかけるけど、その結果やりすぎだという声が国内で上がってくる危険もある。だから、猪突猛進して北朝鮮に圧力をかけるということではないでしょう。中国は国内への反響とのバランスを図りながら、北朝鮮への制裁をやっていく。だから、まだやろうと思えばいろんな手段が残っていると思います。

 今までは日本だけが北朝鮮のミサイルの射程にカバーされていて、アメリカまでは届かなかった。ところがアメリカまで届くようになってきている。さらに西に向けてアメリカ大陸にまで届くミサイルを打てば、中部ヨーロッパまでカバー出来ることになる。これは欧州の危機でもあるわけです。

 「対話」という餌を撒いてみても、結局はそれが時間稼ぎに使われてきたというのが残念ながら現実ですから、圧力をさらにもう一段かけるということでしかないでしょう。

 アメリカが北朝鮮に軍事行動をとることはないと北朝鮮は思っているでしょう。これは事実としてもそうだと思います。1993年にアメリカは北朝鮮に外科手術的な攻撃、あるいは特殊部隊を送って北朝鮮の実験施設を破壊するということを考えたことがあった。そのためのシミュレーションもやりましたが、結局アメリカと韓国合わせて数万人の死傷者が出るという結果が出て、それで軍事オプションを諦めました。そこから一度もアメリカは考え直したことはありません。それに、その間に北朝鮮の報復能力はさらに高まってきているわけです。今は北朝鮮に対して使えるオプションがオープンであるとアメリカは言っていますが、北朝鮮は「やるまい」と思っているでしょう。

 このように、アメリカは自分からは攻撃しないと思います。だからこその圧力です。今、カール・ビンソンやロナルド・レーガン、さらに今度はニミッツといった原子力空母が常時2隻体制で朝鮮半島近海に展開している。これは軍事的な圧力として非常に重要です。アメリカの実力を理解させるということです。日本は1941年に、アメリカが日本の20倍の鉄鋼生産量能力を持つにもかかわらず無謀にも戦争に突っ込んで行ったわけです。アメリカにしてみれば、自分たちのことを本当に知っている日本だったら突っ込んでこれなかったんじゃないかと、北朝鮮だって俺たちのことを本当に知らないんじゃないかと思いたいでしょう。そういう意味でも、あの大空母機動部隊を2つも遊弋させるというのは非常に重要な意味があると思います。ただ、この威力が使用されることはおそらくないでしょう。

 だからこそやっぱり制裁なんです。経済制裁で北朝鮮の糧道を断つ。北朝鮮が本当に経済的に立ち行かなくなるまで、今までよりさらに厳しい制裁を取ることしかないのではないでしょうか。まだこちら側はそこまでいっていません。