岡本行夫公式サイト

2017年5月21日

ロシアゲート疑惑、「特別検察官」が捜査へ

(2017年5月21日「サンデーモーニング」より)

 アメリカの弾劾の手続きを簡単にご紹介します。合衆国憲法の下に「大統領」と「議会」と「裁判所」という三権分立があります。大統領の下に行政機関として司法省がある。そして司法省の下にFBIがあります。あとは国防省があって、その下にDIAやNSAといった情報機関があります。CIAは独立した情報機関で、その他にも国務省やエネルギー省などたくさんの省庁が大統領の下にあります。

 今回、司法省が特別検察官としてモラー氏を任命しました。司法長官は、「自分はこの件に関わらない」と早くから宣言していますので、副長官が特別検察官を任命した格好です。特別検察官は広範な権限が与えられていて、公務員全体の不法行為を調査することができるのですが、今度はトランプ大統領についてやることになります。そしてもしトランプ大統領がFBIの捜査を妨害したということになれば、これはいわゆる「司法妨害」にあたり、立証されれば特別検察官は司法省にそれを報告し、司法省がこれを下院に報告します。下院が過半数で弾劾を発議しますと、次に上院にいき、上院で弾劾裁判が行われます。

 弾劾裁判は、最高裁の長官を裁判長とし、上院議員全員が陪審員になるという制度です。そこで3分の2の賛成が得られれば大統領は弾劾されます。しかし、そのハードルは高い。いま共和党が上下院で多数党ですし、この中で上院の3分の2という数を得るのは困難だと思います。大統領は日本に比べれば強く守られています。日本では、衆議院で不信任決議が通ればすぐに内閣総理大臣が辞職させられます。宮沢さんや大平さんなどは、皆それで辞職させられたわけです。しかし、なかなか弾劾で大統領を辞めさせるのは簡単ではありません。少なくとも、「弾劾」のケースはこれまでにないわけです。ニクソン大統領の場合は、弾劾が始まる前に辞めてしまいましたので、弾劾で辞めさせられたわけではない。

 今度、特別検察官に任命されたモラーという人は信頼性に厚い人です。FBIの長官を任期の10年を超えて勤め、いろんな人から「大変に中立で公平な人だ」と言われています。それに、これだけ衆人環視の中ですから、大統領に対して忖度するということはできないでしょう。とはいえ、トランプ大統領はもちろんピンチになりますが、コミー長官をクビにしたのは大統領だけじゃなくて、例えばペンス副大統領も事前に賛同していたということになれば、副大統領まで「司法妨害」ということになります。そうなると大統領の後継者は下院議長にまで下がり、大変なことになってしまいます。