岡本行夫公式サイト

2017年4月13日

キッシンジャー氏が語る『次なる世界』について③-中国、ロシア

(2017年4月13日BSフジ「プライムニュース」より)

●「(南シナ海問題は)米中両国が話し合いを行い、対立を解決していくことが一番」「互いに自制することが必要」とのキッシンジャー発言について。

 中国との関係はどうもキッシンジャーさん、鋭い切れが見られなかった気がします。要するに、「アメリカと中国は話し合ってお互いに自制しろ」ということでしょう。南シナ海問題が深刻で難しいのは、レッドラインをどこに引くのかということです。北朝鮮問題の場合は、北朝鮮が我々に届くミサイルを完全に開発して、小型の核弾頭を搭載できる技術を持ったときというのが、日本にとってのレッドラインです。アメリカはそれをレッドラインと思ってくれるかどうか。アメリカは自分たちに届くミサイルを開発したときがレッドラインで、この線を踏み越えてはならないという一線が、概念の上では確かにあるわけです。

 しかし、南シナ海は、どこでアメリカがレッドラインと思ってくれるか。中国の拡張主義がこのまま進んでいけば、南シナ海に250くらいある島の全部を中国が取ってしまうことになるでしょう。僕はスカボロー環礁がレッドラインだと思っています。スカボロー環礁はクロワッサンみたいな形をしていて、真ん中を土砂で埋めると3000m級の滑走路を作れます。しかも2本くらい作れるかもしれません。中国は自分たちのやりたいことをすべて誰からのチェックも受けずに、そして国際仲裁裁判所の判決も無視して、好き放題やっている。そうさせてはならない、その前のレッドラインがあると思いますが、アメリカはそう思ってくれるかどうか。

 中国のレッドライン越えをどうやって阻止するかと言えば、海上封鎖です。滑走路を造るための土砂運搬船の入域を阻むということしかないわけですが、アメリカはそこまでやらないでしょう。そうなると、「中国とはお互いに自制、お互いに対話」と言っても、中国は好き放題今までどおりやってくるから非常に難しいです。中国は「新しい大国関係」と今まで言ってきたのに対してアメリカはオバマ時代にはだいぶ譲りました。中国の言う「新しい大国関係」は何かと言えば、「あなたは私の核心的利益を尊重してください、私もあなたの核心的利益を尊重しますから」ということです。中国の言う「核心的利益」には南シナ海も入っています。もちろんチベット、台湾も。オバマはいったんそこを譲ってしまったんです。そこから巻き返してきたうえに今のトランプ政策がある。今のトランプ政策は、中国を戸惑わせるくらい強い出方をしていると思います。

 先日の安倍首相との共同声明にしても、非常に思い切ったことを言っていると思います。「アメリカは日本を守るために核兵器を使ってでも、通常兵器を使ってでも、あらゆるやり方で日本を守る」と書いてあります。こんなに強いことを言った共同宣言というのは過去にありませんでした。1975年の三木・フォードが新聞発表という形で同じような文言で出しましたが、今回は正式の「日米共同声明」という形で発表した。それは中国は驚いた、怯んでいると思います。

●「アメリカの対中政策に関して日本との間ではよりオープンに多くの情報を交換していく必要がある」「アメリカのやり方を日本がサプライズとして捉えるべきではない」とのキッシンジャー氏の発言について。

 キッシンジャーさんの回顧録の中で、彼はニクソン大統領の訪中のことを赤裸々に描いています。日本のことを大切にしろと彼は中国に言ったんです。中国は日本の軍事国化を恐れていましたから、「自分たちアメリカが日本と一緒にいる限り大丈夫だ」とたぶん言ったんでしょう。段々と、毛沢東と周恩来が日本のことを好きになっていくんです。そして最後には、キッシンジャーさんに、「日本という国を大切にしてくれ」と毛沢東は言うんです。「北京に来るときは必ず東京に寄ってから来る方がいいよ」と。そして、キッシンジャーさんはそりゃそうだと感心して、「自分は主要国の首都の中ではどこよりも東京に足しげく通った」と回顧録に書いていました。だから、ニクソン訪中の「サプライズ」をさせて悪かったという反省が今回の発言にはあるんじゃないですか。

 あれは必要悪であったと、どうしてもアメリカの国益を実現するためには些かの情報漏洩もあってはならなかったということでしょう。だから悪かったという気持ちが彼にあったんだと思いたいですね。

●「日米関係は今が最高の時期だ」「一般的にアメリカは日露関係改善を歓迎する」「日本は米露の問題に介入すべきではない」というキッシンジャー発言について。

 視覚的には安倍さんとトランプさんがあれだけ仲良くやっているわけですから、最高の時期だと言うんでしょう。現に日米関係が悪かったのは経済摩擦の時期です。当時は、日本が悪者ナンバーワンでしたが、今は中国が圧倒的に悪者ナンバーワンになっています。日米は、摩擦案件も少ないですし基本的には対立する要素はない。日本人は「アメリカは好きですか、好意的な感情はありますか」と尋ねると、日本人の84%がイエスと回答。ポーランドに次いで高いもので、日本は最もアメリカに対して好意をもっている同盟国です。アメリカもそれは分かっているし、基本的には日米は良くなるでしょう。北朝鮮、さらには中国という共通の脅威が高まってくれば、日米関係は心配することはないと思います。

 日本が米露の問題について介入すべきではないという発言は、あまりよく考えずにおっしゃったんじゃないでしょうか。米露問題は、最大のものはウクライナ・クリミアです。そこは、「日本はアメリカと一緒に制裁しろ」と言っておいて、それで口を挟むなというのはおかしいでしょう。

●「ロシアに役割を持たせるべきかどうか今までアメリカ国内で議論があった」「米露関係を考えていくべき時期であるかもしれない」というキッシンジャー発言について。

 ロシアと中国のバランスというのは常にアメリカ外交の中であるわけです。今までは中国の方に傾いていましたが、トランプ大統領は何度も「プーチンという奴は偉いんだ」と言ってきました。そして中国に対しての出発点では、台湾の蔡英文総統に電話したり、「一つの中国」政策をもう一回見直すと言ってみたり、中国に対する強硬派をずらっと通商政策の正面に並べてみたり、と相当中国に対する姿勢が転換されています。

 それと相対的に、ロシアの役割が今までのようにただ非難の対象にしていたらいいというのではなく、何か建設的な役割を担わせた方がいいということが出てきているんだと思います。今度のアサド・シリアに対する問題で、ロシアのアメリカに対する物言いがあまりにもきついから、トランプ大統領は自分が推し進めようとしたロシア路線は挫折したわけで、そういう面で怒り心頭というのはあるんでしょう。

 真偽のほどは分かりませんがトランプ大統領の弱みをロシアが握っているという話がありましたが、それを払拭するためにも、トランプ大統領は、シリアに対してミサイルを発射したというのはあると思います。トランプ大統領は自信を深めてきているんでしょう。弱みを握られていても、そんなものは否定すれば通るんだという感じが出てきているのかもしれません。

 プーチンという人は危険な人だと思います。クリミアとウクライナの後はどうするかと言えば、今度はバルト三国でしょう。エストニア、ラトビア、リトアニア、そしてそこからポーランドに行こうとしているというのがヨーロッパの恐れです。バルト三国、ポーランドはNATOの加盟国ですから、武力介入すればNATOとロシアは戦争になります。だからそんなことはしないでしょうが、ウクライナでやったようにエージェントや工作員を送り込んで内部から不安定化させる。バルト三国から旧東欧諸国へ不安定さが広がっていくことがロシアの最大の眼目でしょう。ここを止められるのはアメリカしかいません。武力では止められないから、きちっとそれはロシアを交渉のテーブルに着かせて話し合いにもっていかなければならない。北朝鮮とはいくら話し合ってもダメだ、中国はいけすかなくて捉えどころがなくて面従腹背もいいところだ、と思っているかもしれない。一方、力を信奉するプーチンとだったら、過去何度もSALT交渉や核削減交渉をやってきたように、話ができるはずだということがキッシンジャーさんの頭の中にはあると思います。