岡本行夫公式サイト

2017年4月13日

キッシンジャー氏が語る『次なる世界』について①

(2017年4月13日BSフジ「プライムニュース」より)

●「キッシンジャー氏について」

 キッシンジャーさんとは親交があるというほどではないですが、1978年に田中角栄さんの自宅にキッシンジャーさんが会いに来ました。田中さんがロッキード事件で失脚した後です。キッシンジャーさんはニクソン時代に中国との和平を実現させましたが、それに背中を押されるように田中角栄首相が中国との国交正常化をやりました。二人はいろんなところに接点があって、キッシンジャーさんがもう一度ゆっくりと話をしたいというので目白の田中さんの私邸に行ったんです。僕はその時の通訳を務めたのが、キッシンジャーさんとの最初の出会いです。

 今日、キッシンジャーさんの本を持ってきました。むかし元気があった頃の愛読書。上下巻を合わせたら2700ページあります。田中さんのことが色々書かれています。「田中角栄はニクソンと同じである。能力が抜群にある。情熱が凄い。しかし、絶えず不安に駆られているようだった。これはニクソンも同じだった」「田中は日本人には珍しくその不安を外に出した」と。

 僕は角栄さんと長いこと二人で話したことがあります。「自分がまだやり残したことがある」と、それに向かっての夢を物凄い勢いで語るんです。キッシンジャーさんの本にも、「まるでスタッカートを打つように、どんどん話し込んでくる。しかし、常に内省の言葉を挟みながら、これでいいのかと疑問もある」とあります。

 キッシンジャーさんは、「アメリカ人はリーガルマインド、法的枠組みを重視して、そして事実に基づいて現実的に交渉する。一方、日本人は情緒的で捉えどころがない、表現の方法も非常に微妙で、日本人と交渉するときは特別なやり方が必要だ」「沖縄交渉は上手くいったが繊維交渉は上手くいかなかったのは、その日本人の表現不足のせいだ」と。その中で、「カクエイ・タナカは別だ」と書いています。

 キッシンジャーさんにとって不安なのは、何を考えているか分からない日本人。それに対して田中角栄さんは何でも自分の内心まで出してくれると、彼のことは良く分かるという感じでしょうか。

 アメリカ側の意図に反して、田中角栄首相がエネルギー外交を行い、アメリカ側に田中総理について不信があるという議論がありましたが、田中さんが陰謀を企んでいるとか、そういう印象はキッシンジャーさんにはなかったと思います。アメリカ全体で、田中角栄さんに対して好意的な印象を持っていたと思います。

 キッシンジャーさんは日本人に対する敬意はもっていると思います。日本人のことは嫌いではない、だけど異質というか性格がちょっと違うということはよくわかっていると思います。

 キッシンジャーさんは毛沢東と周恩来ともずっと交渉をやってきました。その模様も本にいきいきと書かれています。彼にとっては、中国の方がやりやすかったのかもしれません。