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産経新聞「人界観望楼」
「ブラシア」と「チンディア」

 今月半ば、ブラジルに行った。3ヶ月前に訪問したときに比べ、アマゾン川の水位は格段に上がっていた。何たる水の量。外国企業の工場が集中するマナウスは河口から1300キロも入っているのに、この近辺でも川幅は8キロ、水深は80〜90メートル。アマゾン川は、30秒毎に世界中の人々に1リットルの水を供給できるという。世界の酸素の4分の1がブラジルで作られる由。世界の「人界」のほうは色々問題含みだが、「自然界」の営みは文句なしに素晴らしい。

 ブラジルは「BRICs」として中国・インド(「チンディア」と呼ばれる)と一緒にされるが、ちょっと違う。ブラジルは先進国だ。輸出品目のうち半分以上は工業製品だし、世界第3位の座を争う民間航空機メーカーもある。サンパウロで日系工場を見せてもらったが、並んでいるプレス機の多くはラジル製だった。だから、チンディアとブラジル・ロシア(「ブラシア」と呼んだらどうか)は分けて考えたほうがいい。チンディアは巨大な人口と消費パワー、ブラシアは資源と先進技術力の国々だ。

 ブラジルには150万人の日系人がいる。全世界の日系人の6割だ。日系人は教育熱心で、子弟はブラジル各界で重要な役割を担っている。ブラジルは圧倒的な親日国家だ。世界で初めて、日本方式の地上デジタル放送も導入した。

 ブラジル経済は安定成長している。最近、リオデジャネイロ沖で大油田も発見された。世界に吹く「資源の風」を背景に、ブラジルは躍進への道を歩んでいる。人口はすでに1億8000万人。日本からの距離はいささか遠いが、もっと大切にするべき国だ。今年はブラジル移民が始まって100周年。

 帰途、ニューヨークで金融関係者に会った。話題は外国人投資家の日本離れだ。その週の外国人の売越しは9200億円に達していた。なぜ日本を去るのだという私の抗議に、彼はこう答えた。

 「当たり前じゃないか。日本では改革の歩みが止まり、むしろ規制が強化されている。カネは変化を求めて動くものだ。ほかの市場に資金を移すのは当然だよ」。

 ニューヨークから成田空港に着いたら、外国人が入国するため長い行列を作っていた。1時間、場合によっては1時間半も待つという。待たされて怒り心頭だ。外国人用の指紋押捺も評判が悪い。日本とアメリカではテロの状況が全く違うのに、こうした制度だけはすぐにまねをすると。

好対照は、中国の入国審査だ。外国人にとって実に簡単になった。税関申告書も必要なくなった。( 逆に日本では復活した。)

 このごろは帰国してから不在中の新聞を読まなくても不都合がない。何も変わっていないからだ。日銀の総裁も空席のまま。ガソリン税も解決せず、ガソリンはこの原油高時代に値下がりする。(民主党は2兆6000億円の歳入不足をどうするつもりなのか)。

 ブラジルには躍動感と可能性があった。ロシアには希望、インドには満々の自信、中国は大躍進。世界は音をたてて前へ動いている。

 日本ではこのまま閉鎖体系が続くのだろうか。

産経新聞「人界観望楼」2008年3月30日 朝刊1面

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