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産経新聞「正論」
冷静に防衛体制の再点検を

核攻撃の目標は日本のみ

核兵器の開発・配備に進む北朝鮮の動きは終始一貫している。北朝鮮にとって「核」は、米国を直接交渉の場に引き出すための駆け引き道具ではない。基本的に金正日を動かすものは、体制維持のための軍事判断である。核兵器保有国が外国の攻撃を受けた事例はない。米国のイラク攻撃を見て、金正日が改めて核保有を誓ったことは想像に難くない。北朝鮮は、どのような非難があろうと、核武装を目指すだろう。

去る7月5日の7発のミサイル発射も同じだ。あれは、政治的メッセージ発出のための発射ではない。種類の異なったミサイルを異なった基地から次々とシンクロナイズさせて発射するという軍の統御・管制能力を実証する軍事オペレーションだったと解すべきだ。あの時テポドン2の発射には失敗したが、演習目的自体は達成したと思われる。金正日は計算し尽くしている。

北朝鮮の核武装は、基本的には米国に攻撃させないためだ。しかし、近隣国から多数の人間を拉致したり、韓国の閣僚と随員など20人以上を外国で爆殺するような荒っぽい国だ。核兵器が攻撃目的に使われない保証はない。その場合、核ミサイルが向けられるのはどこか。友好国のロシアや、中国や、同胞の韓国ではあるまい。台湾は脅威ではない。米国には届かない。となれば、残るのは日本だけだ。最も攻撃されやすい脆弱なこの国の防衛体制を冷静に再点検することが今の我々の最重要事である。

抑止力をどう強化するか

日本のとるべき道は明らかだ。抑止力の強化である。第1に、原点に立ち返った日本の防衛力の整備だ。冷戦が終わってから、日本の防衛力整備は「負担さえ軽ければいい」という安易な行政方針の下になかったか。財政当局の防衛担当主計官が、自分がいかに防衛予算を削りこんだかを得々と雑誌に発表するご時世である。安全保障会議も情けない。例えば防空の要の国産戦闘機F2は、1995年の会議で130機製造を決定したが、その後、脅威見積もりの修正も行わないまま、10年後には98機に削減してしまった。

「平和のパラドックス」の下で、日本は現実の脅威に目をつぶり、予算の前年比伸び率と財政状況によって、持つべき防衛力水準を判断してきた。北朝鮮の核以前に、中国では何十基と言われる核ミサイルが日本に照準を合わせている。中国は米国に対してはミサイルの照準をはずすと宣明したが、日本に対してはそのままだ。原子力潜水艦に核ミサイルを搭載して日本の周辺を遊弋させてもいる。これが脅威でなくてなんなのか。日本への脅威は、財政バランスとは無関係に存在しているのである。

日米同盟の再点検も必要

第2に、日米同盟の再点検だ。現実に日本の安全を担保しているのは、日米安保体制下の米国の核報復能力だ。北朝鮮は「日本を核攻撃すれば米国の核報復を受ける」と考えるか。「日米安保条約は一片の紙切れに過ぎない」と考えるか。それは日米関係の実態をどう判断するかという北朝鮮の「認識」にかかっている。半世紀近く続いてきた日米安保体制は、北朝鮮の核武装とともに、その目的が変わってくる。日米の協議が今ほど必要な時はない。

北朝鮮への制裁措置は、当然に必要だが、冷徹な計算を失ってはなるまい。「懲罰」は二義的な目的だ。北朝鮮に2回目以降の実験と核兵器開発のプロセスを思いとどまらせ、最終的に核を放棄させることが本来の目的だ。だから、それにかなった仕組みが必要だ。今回とる制裁措置。北朝鮮がもう一歩進めばその時に発動する更に強硬な措置。最終的に北朝鮮を経済的に窒息させるに至る何段構えかの明確な工程図が必要だ。

米国にも問題がある。米国は、核拡散防止条約(NPT)を無視して核兵器を保有したインドを今年に入って「戦略的パートナー」として歓迎し、同じく核を保有するパキスタンとは「有志連合」の関係にある。その一方で、NPTの加盟国であり核兵器不保持を(嘘なのだろうが)宣言するイランに対しては、一切の対話を拒否して強い圧力を加えている。イランの核兵器はイスラエルに届くからだ。核に対する米国の二重基準が、北朝鮮に「保有してしまえば勝ち」という考えを植えつけなかったか。

ほとんどの外交・軍事的資源を中東に取られている米国には、北朝鮮に対して全力で向き合う余裕はない。先ず必要なのは日本自身の体制整備だ。

産経新聞「正論」 2006年10月12日 朝刊15面

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