Yukio Okamoto Online
トップ世界を見る視点執筆とインタビューフォト報告プロフィールリンク

執筆集 連載集

ミセス「地球をゆく」
ユーモア万歳!

外国とのつきあいで、いちばん大事なのはユーモアの精神だと、僕は思っている。心を開放して一緒に笑えば、もう、国境も民族境も人境もない。今日の話は、少々自慢めくが、このコラムもこれで最終回だそうなので、お許しください。

2週間前に韓国のソウルに講演に出かけた。はりきって英語の原稿を用意していったのだが、会場へ着いてみると、聴衆はすべてビジネスマンで、僕の用意していた戦後日本史などのテーマとはおよそ関係のない雰囲気だった。僕は焦り狂ったが、どうにもしかたがない。エーイ、ままよ、とクソ度胸で演壇に上がって、聴衆にこう言った。

「皆さん、僕は徹夜して、これこのとおり、17ページの政治演説を書きました。読むのに1時間かかります。(笑)でも皆さん退屈するでしょうからやめてあげます。(笑)その代り経済についておしゃべりします。でも僕の英語力は1時間も続きません。だから、59分しゃべります」(笑)

聴衆は笑うことによって僕に心を開いてくれたのだ。僕は下手な英語で即席のスピーチを、きっかり59分間やった。みんな熱心に(と思うんだけど)聴いてくれた。

とにかく聴衆が、僕とテーマに親近感を持ってくれるかどうかですべてが決まる。ユーモアで、いちばん大事なのは、TPOだ。これを計りまちがえるとみじめなことになる。僕にも失敗がある。しかし、うまくいけば爆発的な効果だ。

最近いちばんウケたのは、数か月前にMIT(マサチューセッツ工科大学)でやったスピーチ。聴衆は大学の先生や経済人が150名ほど。僕の前に話したのは、ポール・クルッグマンという将来はノーベル経済学賞をとるのではないかといわれている若手の経済学者。彼がアメリカの生産性について話をした後、僕が日本の同じ問題について話をするという残酷な形のセミナーだった。こりゃ逆立ちしても僕は見劣りする。どうしようか。壇上に向かう途中、いいジョークがひらめいた。僕は聴衆にこう言った。

「クルッグマン教授と私を比較しないでください。特に英語を比べないでください。私はシンプソン裁判の判事ですらないないんですから」

僕が何を言っているのか分からなくて、1秒間しんとした会場が、次の瞬間には爆笑に包まれた。後から聞いたところでは、最前列のグレイMIT学長は笑いすぎていすからズリ落ちたそうだ。

これは少々説明を要する。花形フットボール選手の妻が殺された例のシンプソン裁判の判事は、日系人のランス・イトウ。そのイトウ判事の日系人なまりの英語をニューヨーク州のダマト上院議員がまねしてからかったのだ。これは大きな問題になり、僕のスピーチの朝、ダマト議員は公式に日系人たちに謝罪したのである。聴衆も、みんなそのニュースは知っていた。そしてダマト議員のことを恥ずかしくも思い、あきれてもいたのだ。そこへ僕がばかを言ったので、皆の気持ちが一挙に解放され、日本人である僕と一緒に笑うという形で自分たちの鬱憤を昇華させたのだ。これが僕の心理学的解析。このジョークのポイントは、日本語では説明しにくいが、「ですら」にある。あの日だけしか使えないジョークだった。

世界の中で、やはりアメリカ人のジョークに対する感覚は優れている。いたるところユーモアの精神ありだ。僕が友人のアートの運転する車で、アメリカのある町を走っていたときのこと。僕たちの2台前を走っていた車が道路で停まって、歩いていた夫婦に尋ねて、走り去った。そしたら、1台前の車も同じように停まって、同じようにその夫婦に道を尋ねたのだ。夫婦は丁寧に答え、車の運転者も丁寧にお礼を言って走り去った。そしたら、アートもその夫婦のところで停まったのだ。彼は大声でこう言った。「僕は何も尋ねることはありません。でも、ありがとう」夫婦のおじさんのほうが町中に聞こえるような声で叫び返した。「それはなんとすばらしい。こっちもありがとう!」

ヒマだからこんなことやってられんだ、などと貧乏性で考えてはいけない。これこそユーモアの精神なのだ。 こいつあおかしいや、と大笑いしたヤジもある。昔、ボルチモアの港町へショーを見にいったときのこと。白状すればストリップ・ショーだ。美人のダンサーが悩ましく音楽に合わせて踊る。腰をくねらせ、妖艶なポーズをとった。その瞬間に、大向うから声が飛んだ。「おーい、あんた、ウチのかあちゃんみたいに料理できるかよう」劇場中が爆笑し、踊りっ子のおネエさんも笑いながら引っ込んでしまった。アハハハハ。

楽しんでこのコラムを書いてきましたが、お別れの時になりました。皆さんお元気で。イラストレーターの谷口さん、笑い顔をたくさん書いてください。

ミセス「地球をゆく」 1995年12月号

Copyrights (C) 2008 Okamoto Associates, Inc. All Rights Reserved.当サイトのご利用についてサイトマップ